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昭和プラモデル物語(44)




 トヨタ2000GTといえば誰もが憧れた国産車における名車中の名車だ。そのように頭の中で理屈としては理解している。だが今ではその思いに「抑えきれないほど熱く胸焦がして」いる向きもさほど多くはあるまい。あれほどの思いは一体どこに行ってしまったのだろう。自動車それ自体がステイタスでなくなってしまったせいもあろうが、格別のクルマに憧れるという感情そのものが何だか希薄になってしまわれたように思えてならぬ。確かに今でも美しいクルマだとは思う。日本のエキゾティックスポーツカーの元祖であり先駆けであるとは思う。あのツインカムヘッドで飾られたストレート6には見愡れてしまう。ウォールナットを多用した贅沢なコクピットには感嘆してしまう。だが、ならば乗ってみたいか、欲しいかと問われれば、そうでもない…。そうでもなくなってしまった自分が居て、そんな醒めてしまった自分がまた哀しくもあり寂しくもある。あの頃はどうしてあれほどにまで無条件にクルマに熱中していられたのだろう。まるで熱病に冒されたように…。
 トヨタ2000GTが誕生した1967年、ボクは中学2年生だった。あの時代であったからボクの日常に自動車という存在はさほど身近なものではなかった。クラスの中では西田君のお母さんがようやく中古のダットサン1000から、これまた中古のブルーバード(ピニンファリーナの410型だったような気がする)に乗り換え、またチエミちゃんの家にはスカイライン(初代セダンの4灯ヘッドランプだったような…)が停まっていた。自家用車が一家に1台なんていうのは未だ夢のまた夢だったような時代だ。当然、ボクの家には自家用車なぞなく、父も運転免許証など持ってはいなかった。そんな時代であったからトヨタ2000GTは、今でいうならランボルギーニやマセラティみたいな物凄い存在であった訳だ。実物など見たことはなかった。ただボーイズライフなどの少年誌の写真で知っているに過ぎなかった。だからボクにとってのトヨタ2000GTはプラモデルの世界にしか存在していなかった。当時、ボクのバイブルのひとつであった工作ガイドブック(科学教材社刊)には、今井科学と大滝のトヨタ2000GTが載っていた。どちらも前期型でスケールは1/16、当時としては大きなデラックスモデルである。その両社キットの完成モデル写真を穴の開くほど眺めては溜め息をつく、一体そんなことをどれだけ繰り返したことだろう。大滝のキットはオール開閉可動、エンジンも内蔵された「超豪華版」であった。対して今井科学のキットはボンネットと左右ドアは開閉するものの、エンジンはない簡略化された内容だった。当然、当時の感覚からすれば大滝のキットに軍配が挙がる。何しろバッテリーボックスのカバーに至るまで開閉するのだ。超精密再現のスーパーキットここに極まれり、である。だがしかし…完成モデルの写真を見較べると明らかに今井のキットのほうがそれっぽい。いや、実車を見たことのない身である。直観というか、プラモデル大好き、自動車大好きのボクの琴線に触れる感じがしたのだろう。今ならバランスがどうだの、ここのラインがそれらしいだのと具体的な講釈を垂れられるのだろうが、当時のこととて「とにかく今井のほうがかっこいい」としか表現が出来なかった。買うなら今井だ。それに今井のほうが値段だってずっと安い(内容が違うのだから当たり前である) 勿論そう決断したとて、だからといっておいそれと買えるような訳もなく…いたずらに時間は過ぎた。そのうち、生半可に知識もつき、大滝のはホワイトウォールタイヤだしワイヤホイールだし…それに較べて今井はちゃんと標準のマグネシウムだよ。だけどボンネット開けても電池ボックスとタイヤが見えちゃうのってショボいよなあ…あれ? 今井のボディってルーフ丸く脹らみ過ぎてね??(当時の言葉遣いはこんなではない…) これはカッコ悪いよ~…遂にボディ形状の欠点に言及するに及んで、ボクは今井科学のキットも買う気が薄れてしまった。何しろ大枚を投入するのである。一応、断念しつつも常に気になるモデルであり続け…そのうち今井科学のキットが店頭から無くなってしまい、それでも1/16トヨタ2000GTはバンダイから再び発売され…それでも「ルーフのおでこ部分を修正しないと組み立てる気のしないキット」になってしまい…そんなこんなしているうちに時代は1/20が主流となって、ボクも1/16なぞ作る気がしなくなってしまい…やがて実車に接する機会が増えると模型への興味は一層薄れ…しかしモデルカーズ創刊で再びトヨタ2000GTへと回帰し…だが対象はニチモとオオタキの1/24となっていた。そして、それからまた幾とせ、改めて1/16トヨタ2000GTが気になってならぬ。思い出す度、M博士が奉納してくれた今井科学の海外版であるAHM/Associated Hobby Manufacturersのキットを取り出しては眺めている。今井のキットは赤ボディだよなあ…いやスピードトライアル車もいいよなあ…。40年を経ても未だ惑い続けている。どうやらボクの中ではクルマへの思いは未だブスブスと燻り続けているらしい。(続く)

プロフィール

平野克己(ひらの・かつみ)

MC誌の最前線を長うお准将に託し現在はフリーランスの予備役として活動中。湘南鎌倉で猫的スローライフを提唱しつつ、国産プラモデル史の編纂に尽力する日々を送る。永年飼ったコブラ427S/Cを手放しMC(Motorcycle…Modelcarsではありませぬ)復帰を密かに目論む。自称昭和プラモ小僧の60歳。座右の銘は心情溢るゝ軽薄さ。

2014年10月

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