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昭和プラモデル物語(45)




 ボクが三共1/25トヨペット・クラウンDXのキットと初めて出会ったのはこのパッケージの時だ。恐らく1964年/昭和39年の事だったろう。写真のナンバープレートからもそれは符合する。これ以前にもイラストのボックスアート版があったが、ボクはその時代はキットの存在を知らなかった。この箱を店頭で初めて見た時、トヨタのカタログ用写真を使用したパッケージに新鮮な高揚感を覚えた。それまでのイラストとは違ってとてもモダーンな気がしたのだ。金色に輝く車体、そして背景にはパノラミックビューイングな富士山。判で押したように極めて日本的でありながら、それまでの日本のイメージとは違ってアメリカナイズされた光景がここにはある。この時代を知らぬ人に説明するのは難しいかもしれないが、この新型クラウン、俗に“T型グリル”と呼ばれるRS40/41系クラウンは、国産車に洋々新時代がやって来た事を予感させるものであった。戦後発の純国産車、初代RS系クラウンの後継車種として1962年/昭和37年に登場した2代目クラウンは、それまでの国産車の固定概念を払拭する直線と平面で構成された近代的イメージに溢れたボディが新鮮であった。それは'50年代の古臭い「ずんぐりむっくり」とした国産車からの訣別と、そしていよいよ日本もアメリカのような国になってゆくのだという期待感を抱かせた。このクラウンの登場によって街の風景は華やかで垢抜けたものに一変し、一気に時代が進んだような気分にさせてくれた。今では“ゼロ”クラウンと称し、改めて原点へ回帰してリセットせざるを得ないような情況にあるクラウンだが、この時代のクラウンには国産車の頂点たるステイタスが充ちていたのだ。その登場に対する反応も、喩えて言うなら「フェアレディZやスカイラインGT」のそれにも匹敵したかもしれない。
 キットそれ自体に対しての反応も、まさに実車のそれに近いものだった。なにしろそれまでの国産プラモデルの自動車キットには華がなかった。元となる実車が質実剛健ばかりをウリとする地味なセダンばかりであったのでそれもまた致し方なかったが、もっさりして分厚いボディ、しかも良く見ないと何のモデル化なのか判らない不自然なプロポーション、車室内にデンと置かれたモーターや電池、玩具の域を脱していないゴムタイヤ、などなど、とにかく自動車のプラモデルは玩具のレベルでしか評価しようもなかったのだ。ところがこの三共のクラウンはそうした玩具の域を脱して、あたかもジョーハンやAMTなど外国製キットを彷佛とさせる内容を持っていた。ひと目でクラウンと判るボディ、シャープな切れ味の凹モールド、国際スケールである1/25の採用、開閉するボンネットとトランク、ボンネット内に再現されたエンジン、完全に再現された前後ベンチシート、そのどれもがそれまでの国産キットにはなかった“外国産キットのテイスト”であった。無論、今にしてみれば「大袈裟を通り越してたわ言」みたいなものである。恐らく若いプラモファンなら「これがか…?」と落胆するであろう。だが当時の感覚ではまさにそれほどに新鮮な感動に充ちていたのである。当時は誰もが「何でえ、クラウンかあ」などとは決して思わなかった。
 確かに時代の移り変わりは残酷である。これほどに感動を誘ったクラウンも、その後、同社から発売されたセドリック、デボネア、プレジデントと比較してしまえば、余りに稚拙で見るに耐えない代物でしかない。ボディはフォルムもディテールも「今いち」以下だろう。前後リッドの開閉はヒンジもなく金属クリップで挟み込むだけだ。再現されたエンジンは左右2分割でマブチ13モーターを内蔵するようになっているが、単にでこぼこのある箱にしか見えない。上に着くエアクリーナケースがクリアレッドなのも不思議だ。まあ、その時点ではあれほどに感動を誘ったキットだが、時を経てしまえば「すっとこどっこい」なものでしかない…往々にして時代とは、人生とはそんなものなのだろう…。それでもプラモデルに寄せる郷愁とは「実体とは別な」ものである。このキットに幻想を抱いてはいなかったが、ボクにとっては永年に亘って再会したいプラモデルの最たるもののひとつであった。だが内容が内容なので同社のセドリックなどと同レベルの代価を支払う気持ちにはどうしてもなれなかったのもまた事実だった。だがこのボックスアートに久し振りに再会した刹那、懐かしさが溢れた。堂々たる富士山を背景に楽しげにドライブする人々、これはあの頃のボクたちだ。いや、そうありたいと夢見たボクたちの幻影だ。垢抜けた近代的な生活を夢見たあの頃。そしてトヨペット・クラウンはそんな夢の暮らしの象徴だった。現代のクルマは人とモノは運んでくれるが夢を運んではくれない。
(続く)

プロフィール

平野克己(ひらの・かつみ)

MC誌の最前線を長うお准将に託し現在はフリーランスの予備役として活動中。湘南鎌倉で猫的スローライフを提唱しつつ、国産プラモデル史の編纂に尽力する日々を送る。永年飼ったコブラ427S/Cを手放しMC(Motorcycle…Modelcarsではありませぬ)復帰を密かに目論む。自称昭和プラモ小僧の60歳。座右の銘は心情溢るゝ軽薄さ。

2014年10月

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