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モデルカーズ的こころ(61)

 今だから話そう…ボクの海外取材の中で一番回数の多かったのはモンテレーのラグナセカ・クラシックカーレースのリポートであったろう。そこではプレス向けに開催期間中切らねば取れないリストバンドの携行が要求される。それにはコース内でのあらゆる事故に自らの責務が負わされる旨が書かれている。On Your Riskということである。つまり「君もしくは君のメンバーが捕らえられ(誰に?)あるいは殺されても当局は一切関知しないのでそのつもりで」ボヨヨヨン…という訳だ。実際、危険な目には幾度が遭った。例えば観覧席裏の移動スタンド売店で買ったハンバーガーの肉が生焼けで腹下しを起こしたり…そーでねーって。ラグナセカと言えば「コークスクリュー」が最大の名所であるが、ここはコース上で最も高い場所からコーナーを抜けると一気に、まさに「真っ逆さま」と言った感じで駆け下るコーナーである。ここいらには一般の観客は入れず、ボクたちプレスのみである。何しろ見るからに危険だ。ガードレールの外にエスケープゾーンはなく、直ぐに雑木林のような下り斜面になっていて、咄嗟の逃げ場などない。だが、ここでリポートせずして、ここで写真を撮らずして、何がラグナセカか…若気の至り、ではない。今でもそう思う。そして、ボクの目の前でフロントエンジンのフォーミュラ(フェラーリの何かだったと思うがもう忘れてしまった)がスピンしたのだ。ガードレール直撃であった。そして、そのガードレールの直後の足場の悪い場所にボクは立っていた。まさに2mとは離れていなかったのではなかったろうか。それでも不思議と怖いとは思わなかった。それほどレーシングカーが好きで好きでたまらなかった。あそこでボクが死んでも誰も保証などしてはくれない。そうした現場でボクは働いていた。好きで働いていた。だが、あの頃は生命保険などかけてはいなかったから、万一の場合は幼い子供たちを抱えて妻は路頭に迷ったろう。しかし、そんな想像力さえボクの思考回路の中には入り込む余地などなかった。オートマチックゆえに音も無く突然ニュッと飛び出して来るシャパラル2D、それとは対照的に派手に腹を擦り火花を散らして飛び込んで来るデニー・ヒュルムのマクラーレンM8D、そこは自らの身の安全など顧みないほどの高揚をもたらす聖地であったのだ。ただ、ひとつ言えるのはボクにはあのコークスクリューをコブラで駆け下るだけの勇気など塵ひとつもない、ということだ。 (続く)

プロフィール

平野克己(ひらの・かつみ)

MC誌の最前線を長うお准将に託し現在はフリーランスの予備役として活動中。湘南鎌倉で猫的スローライフを提唱しつつ、国産プラモデル史の編纂に尽力する日々を送る。永年飼ったコブラ427S/Cを手放しMC(Motorcycle…Modelcarsではありませぬ)復帰を密かに目論む。自称昭和プラモ小僧の60歳。座右の銘は心情溢るゝ軽薄さ。

2014年10月

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