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2010年12月アーカイブ

昭和のプラモ歳時記「プラモ小僧走る」其の2

桜並木の下

 満開に咲き誇る桜並木の下、人や物や何もかもが薄紅色に映えた。麗らかな桜色の陽光が小さな商店街に艶やかさと賑わいを与えていた。そんな春の匂いを胸一杯に吸い込みながらひとりの少年が桜並木の下を走っていく。洗い込まれたフランネルのシャツ、半ズボンにゴムびきのズック靴。お尻にはつぎが当たり、靴の爪先には親指大の綻びの穴。少年が一歩蹴上げるたびに土道からはうっすらと土ぼこりが舞い立った。街は桜の仄かな香りと共に木や土の匂いが漂い、遠い工場のサイレンや流れ行く流行歌の喧噪で充ちている。少年の額には玉の汗が陽光に照りかえり、勢い良く前後に振る手のひらはぎゅっと拳を握り締めていた。その手のひらの中には10円銅貨が3枚。少年は脇目もふらずただ一目散に桜並木の下を駆け抜けていく。風のように。
 天野屋の土間は薄暗く、湿った土と黴の匂いがした。天井からぶら下がるひとつきりの裸電球がぼんやりと黄色いともしびを落としている。この土間までは桜の華やかさも届かない。天野屋はボクの行きつけの駄菓子屋だった。幼稚園の年長の頃より通い続けている。1日10円の小遣いを貰っては天野屋で玩具や駄菓子を買うのが日々最大の娯楽であった。爆竹やネズミ花火で悪さをしたり、ゴムまり1個で三角ベースボールに興じたり、銀玉鉄砲で空き地の市街戦をしたり、ボクたちの遊びには欠かすことのできない遊び道具の供給源だった。時には潜望鏡、パッチン、日光写真、びっくりナイフ、などなど、得体の知れない駄玩を仕入れては友達同士で自慢し合った。またきな粉飴だのソース煎餅だの、その他諸々、極めて怪し気な人工甘味料がふんだんに用いられて、舌が不気味なほどの色になってしまうような駄菓子もたらふく買い食いした。大抵のものは10円あればケリがついた。
 かつて駄菓子屋は子供の娯楽の殿堂、子供の社交場として地域社会に根付いていた。それはある意味、子供社会のコミュニティーとして機能しており、現代のように少子化社会ではなかった当時、学校からの帰り道、あるいは帰宅後の日没までの時間、友達と約束しなくとも、駄菓子屋に行けば誰かと合えた。時には友達がその友達を連れて来て、互いに友達の輪を拡げることにも貢献した。駄菓子屋には大抵、口うるさいオヤジだの礼儀に厳しいバーちゃんだのが居て、ボクたち近所の悪ガキどもに親しく笑いかけ、時には烈火の如く怒ったりもした。挨拶と礼儀は駄菓子屋で覚えたようなものである。駄菓子屋とは子供たちにとって社会教育の場であり、大人へと成長するための対人関係を覚える最初の登竜門でもあった。着物の襟に手拭いを巻いた前掛け姿のオバちゃんとの対面販売を基本とした駄菓子屋では、現在のコンビニなどのように押し黙って店舗に入って来る客など居ない。誰もが声がけをしてから店へと足を踏み入れた。良家の坊ちゃんや女の子は「くださいなー」、少しクダけた子は「ちょうだいなー」、悪ガキどもは「おくれー」と声に出して挨拶するのが取り決めであり不文律であった。そして取り分け良い家の子息や令嬢は「ちょうだいな」と店先で直立不動のまま動かず、店主が「はーい」と返事をするまで待った。こうした挨拶習慣はこの時代の子供言葉として恐らくは全国共通のものであったろう。ちなみに「○○ちゃーん、あそぼー」というのも同じ子供言葉のひとつである。子供社会には子供にのみ適応される習慣や取り決めが厳然として存在した。昭和30年代とはそんな時代であった。

昭和のプラモ歳時記 「プラモ小僧走る」 其の1

はじめに

 ボクは昭和28年に生まれた。だから概ね昭和世代であり戦後世代なのだろうと思う。昭和という時代は激動の時代だったと良く言われるが、太平洋戦争を挟んでその前と後とではその激動の意味合いが著しく違う。ボクの知っている昭和とは当然のことながら終戦後である「後の」昭和だ。その戦後の昭和が「近代化、国際化」のお題目のもとに大きく様変わりしたのは、1964年/昭和39年に開催された東京オリンピックを契機とする。オリンピック開催は戦争で疲弊した日本が世界の一等国へと復帰するための悲願であった。それゆえに世界に誇れる近代国家を標榜し何もかもを激変させていった。そんな世情の中でボクたちは少年時代の原風景をことごとく失ってしまったのだ。そうした喪失感は今もあって、それが置き忘れて来てしまったものへの郷愁となっているのかもしれない。そんなボクたちにとっての郷愁とは遊びであり玩具であろうか。馬跳びや缶蹴りや戦争ごっこや三角ベースボール、僕たちには沢山の遊びがあった。そして何といっても欲しいものの筆頭の玩具たち。ブリキの自動車やダイキャスト製の二丁拳銃、日光写真や銀玉鉄砲などの駄玩具、そうしたオモチャこそボクたち昭和世代の少年たちにとっては懐かしい思い出であり、置き忘れて来てしまった大切な大切な宝物なのだ。そんな玩具たちのひとつ、プラモデルはボクにとっても特別の存在であった。そして,その思いは現在も変わることがない。ボクがプラモデルに出会った最初は1960年/昭和35年のことで、ボクが小学2年生の頃だ。あれからもう半世紀もの歳月が過ぎ去った。プラモデルそれ自体も、プラモデルを取り巻く環境も、世の中も人々も、何もかもが時代の移ろいと共に変わっていった。同時にボクたちが生きた昭和も歴史の教科書の中に埋没しようとしている。そして、やがてはセピア色に褪色し輪郭さえも朧になっていくのだろう。それでもあの時代に生きたボクたちの記憶は今も鮮明なままだ。遊ぶことが子供たちの仕事であった時代、それは子供が子供として生きられた理想郷のようなものであった。社会は未だ貧しかったけれどそれを苦にする者など誰も居らず、少年たちの顔は泣いても怒っても最後はいつも笑顔だった。過ぎ去った時をステレオタイプに「良い時代だった」と言うつもりはない。だが、少なくともボクにとってのあの時代は、プラモデルがあったから今も懐かしく甘美な記憶となって残されている。プラモデル、それはボクたち昭和世代の子供たちにとっていつまでもいつまでも憧れであり続けるだろう。(続く)

モデルカーズ、全面リニューアルのお知らせ

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 来年4月発売号よりモデルカーズは大幅なリニューアルが行われて全面的に生まれ変わります。これは昨今の空前の少年雑誌ブームを受けて、モデルカーズ編集部が持てる総力と今後の命運を賭して実現した史上空前の大英断です。まさに自画自賛、言語道断、不埒で厚顔なる新生モデルカーズにご期待下さい!!
 本誌に使用する用紙を塗工紙から更紙に変更することで近代稀に見る画期的コストダウンを実現、これにより頁数が360ページと大変読み応えのある内容となりました。巻頭グラビアの「これが世界のプラモデルだ!」では古今東西のプラモデルキットを今さらながらに大集合、名作から駄作に至るまで余すことなくご紹介しています。これを見れば明日からアナタもプラモ博士間違いなしです。巻頭特集は「国産プラモデルメーカーの聖地を巡る巡礼の旅」とし、東京下町と静岡のメーカー所在地を徹底現地取材。パワースポット、グルメ、温泉など見所満載の情報が満載です。特別読み物は本誌契約下請けライター鎌倉亭雲國斉猫之家がマッドサイエンティスト宮沢ちちんぷいぷい博士発明になるタイムマシーンを試乗、昭和30年代から40年代の東京へとワープしマルサン商店の真実へと迫ります。また、その際、うっかり忘れちゃったので、青森県恐山のイタコ猫田にゃんおばあにマルサン商店専務(のち社長)石田 實の霊を呼び出してもらいインタビュー、「みんな恙無く元気に暮らせや」のありがたいお言葉もいただいております。なおインタビュー記事は津軽弁を標準語へと翻訳(こらーっっ!!)しておりますので、多少ニュアンスに差異が生じている箇所のありますことをご了承下さい。その他、新進気鋭の漫画作家による模型漫画「プラモ小僧走る」「エデンのプラモ」「メイクアップ物語」「ルビコン川の慶」「プラモ部隊結構」「フクヤマさんちのダットサン」など、ためになるねえ、ためになったよぉのおもしろ漫画も満載です。またリニューアル創刊号特別企画として抽選で5名様にマルサンのフライデー(言っちゃったね...)が当たる豪華読者プレゼントクイズ「なんだこりゃ?」もあります。
 空前の雑誌付録ブームに遅れを取ることなく、新生モデルカーズは本誌挟み込み豪華6大付録付きとなります。第1付録は出顎捨値社の協賛による連載組立模型「1/12ホンダRA271F-1」が遂に登場です。毎号パーツがついていますので、これを組み立ててゆきますと精密無比な素晴らしい1/12スケールモデルが完成します。その第1弾はホンダF-1、僅か320号完結の迫力と魅力のアイテムです。今回はホワイトメタル製のディテール感溢れる燃料パイプの継手管です。芸術とも思えるホンダF-1の世界をお楽しみ下さい。第2付録から第6付録もそれぞれ小冊子とDVDによる魅力ある内容で、これを見なければ月曜の会社での会話についてゆけません。さあ新生モデルカーズ、いよいよ発進です。乞うご期待、待たれよ4月号!!
(全ては妄想で実在のものとは何ら関わりがありません)

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プロフィール

平野克己(ひらの・かつみ)

MC誌の最前線を長うお准将に託し現在はフリーランスの予備役として活動中。湘南鎌倉で猫的スローライフを提唱しつつ、国産プラモデル史の編纂に尽力する日々を送る。永年飼ったコブラ427S/Cを手放しMC(Motorcycle…Modelcarsではありませぬ)復帰を密かに目論む。自称昭和プラモ小僧の60歳。座右の銘は心情溢るゝ軽薄さ。

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