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情熱は陽炎のように揺らぎ立ち

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 秋虫の鳴き声ばかりが響き渡る静寂の夜更け、またひとり友人が逝った。二玄社に寄稿するなど、自動車の分野での造詣が深い編集者であり執筆者であった。それ以外にも音楽や宗教、模型など、その知識と興味は多岐に亘った。私の提唱するエイジング・ホビーに関しても深く理解をしてくれた男であった。
 夏の暑い盛りの夕刻、病室の彼を見舞った。見る影もないほどに痩せさらばえていたが、意欲と気力は何ら衰えていなかった。死の宣告を真正面から受け止め、限りある日々を有意義に費やしたいと語る気丈な男であった。しかし、これが人生だと嗚咽する姿に、情熱を傾け続けたものたちへの決別の無念さが垣間見え、慰めるべき言葉も知らない己の無力さに無性に腹が立った。
 若き日々、共に戦った多くの戦友たちを失った私は、これからの残された日々に何をすべきなのだろう。志し半ばで逝かねばならなかった友たちに、一体どうしたら報いることができるのだろう。だが、そんな私も余りにも歳をとり過ぎ、余りにも戦う力を失い過ぎた。粉骨砕身、全霊を傾けて、などとは、もはやとても言えない。だが、黄昏の斜陽には未だ煌めきの輝きも残されている。残照の中に彼の少年のような笑顔が浮かんでは消える。彼だったら今の私にどう生きよと言うだろう。
 心臓病の大病を煩った家内に続いて、老いた母が大腿骨の人口骨頭(つまりチタン製の人口関節である)を埋め込む手術をした。転んで大腿骨を骨折した結果である。60をとうに超えた病人の妻と90の高齢となった母に寄り添って生きるには、世の中は余りにも冷酷で無慈悲である。請求書と督促状の束を眺めながら、ひたすら日々の小銭稼ぎに勤しむばかりである。働けど働けど追い付かない。けれどそれしか術が無いのであるから仕方がない。死を乗り越えたばかりの妻が必死に社会復帰を果たそうとしているのだから、私が愚痴ってなどいられない。くさったり泣いたりしている暇など無い。そして、たちまち明日は来る。人生は転げ落ちる坂道のようだ。だから、気付かぬうちにたちまち歳を取る。それでも私は未だ幕引きを宣告された訳ではないのだから、残り少ないものではあろうが未来に向かって歩き続ける。出来ることなら好きな仕事と共に時を刻めれば良いのだけれど...人生それほど甘くはない。♪人生楽ありゃそれでいい〜なんて歌ってはいられない。あと、幾つプラモデルを作って記事を残せるのだろう。「未だそんな気でいるのか」と彼が笑っているようだが、私の願望はやはりそれだけなのだ。

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プロフィール

平野克己(ひらの・かつみ)

MC誌の最前線を長うお准将に託し現在はフリーランスの予備役として活動中。湘南鎌倉で猫的スローライフを提唱しつつ、国産プラモデル史の編纂に尽力する日々を送る。永年飼ったコブラ427S/Cを手放しMC(Motorcycle…Modelcarsではありませぬ)復帰を密かに目論む。自称昭和プラモ小僧の60歳。座右の銘は心情溢るゝ軽薄さ。

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